クラウドブログ

2026.05.26 日本のデジタル産業への貢献 ─ 津田邦和の軌跡2

Chapter 04

ゼネコン型からの脱却

日本のIT産業のビジネス構造を変えたきっかけ。

日本のIT産業が長年抱えてきた課題のひとつが、建設業に似た「ゼネコン型」の多重下請け構造だ。元請けが大型案件を受注し、設計・開発・運用を次々と下請けに流すこの構造は、クラウドの台頭によって根底から問い直されることになる。クラウドは「型化・プレフィックス化」による高度な効率化と継続的なサービス提供を基本とするビジネスモデルであり、ゼネコン型の収益構造とは相容れない部分が大きいからだ。

1999年のASPIC創設段階から、こうしたビジネス構造の問題提起に関わってきた。ASP(Application Service Provider)とは、インターネット経由でアプリケーションをサービス提供するモデルであり、後のSaaS・クラウドの先駆けだ。この概念の普及と標準化を、業界団体・政府・民間企業の関係者とともに三方向から進めることで、日本のITビジネスの「売り方」と「稼ぎ方」を見直す議論の土台づくりに努めてきた。

財務省・通関システム審議会への参画(2005年)

ブッシュ政権から小泉首相への要望を受けた公的IT随意契約の適正化委員会(財務省)に委員として参画。公共ITシステムのWTOルール対応と競争入札の適正化をめぐる議論に加わり、公共調達の構造改善に関与した。

小泉政権でスタートした自治体向けの共同利用アウトソーシング(クラウド化)では、東京都・大阪府・北海道・千葉・新潟・宮崎・沖縄など全国の自治体担当者とともに、入札仕様の策定から業者選定のプロセスを支援した。

調達の仕組み、契約の構造、組織の意思決定──これらは関係者全員が変わらなければ変わらない。その変化の議論に関わり続けることが、産業構造を少しずつ動かしてきた。

Chapter 05

競争力あるデータセンターへ

寒冷地グリーンDC構想──日本の地方を強みに変える。

2000年代後半、データセンターは都市部への集中が常識とされていた。しかし「北海道・東北・新潟の寒冷地こそが、低コスト・低消費電力という点で国際競争力を持ちうる」という発想のもと、産学官の関係者へ提案し、データセンター立地アセスメントの取り組みを進めてきた。北海道では全42カ所を調査した結果、石狩市が最優良候補と判定され、次いで千歳・苫小牧も選定された。その後の誘致活動を北海道庁・石狩市とともに推進し、誘致の具現化に至った。

地域経済への複合効果

新産業の誘致・雇用創出・電力の地産地消という複合的な経済効果をもたらすプロジェクトとなり、石狩市長の発言によると工場誘致の強い要因ともなった。

国連ITUベストプラクティス受賞

「冷涼な外気冷房活用」は現在では世界標準となり、国連ITUのSG5でベストプラクティスとして採用。数十社・100名以上の技術者との共同研究の成果。

電気学会・IEEE論文発表(2010年・上海)

電気通信大学・東京理科大学との共同研究として論文にまとめ、国際的評価を獲得。業界の猛反対を超えて科学的根拠で示した成果。

東北復興支援クラウドフォーラム(2011〜2021年)

IT業界400名の有志とともに東北SaaSクラウド復興支援フォーラムを立ち上げ。被災地の民間企業がクラウドで事業を継続・再建できるよう支援した。

「サーバ冷却に外気を活用する?」──業界の猛反対を経ながら、数十社・100名以上の技術者と研究を積み重ね、実証データで示し、国連で認められた。

── 多くの仲間の協力があってこその結果だった

Chapter 06

政府への働きかけ

1996年から30年──政策を動かし続けた提言と研究開発の軌跡。

政府への働きかけは、30年近くにわたる継続的な取り組みとなっている。単発のロビー活動ではなく、研究・実証・ガイドライン策定・委員会参画・政治家への説明という多層的なアプローチで、日本のクラウド・データセンター政策の議論に関わってきた。

その始まりは1996年に遡る。当時、クラウド(ASP)という概念は野村総研・三菱総研・みずほ総研といった大手シンクタンクでさえ十分に対応できていなかった。総務省データ通信課の担当者(後の審議官)に対し、「クラウドがIT世界を変え、通信とコンピュータの融合が巨大市場を生む」というビジョンをお伝えし、その後の委員会設置や研究会の立ち上げにも関わらせていただいた。

総務省「公共ITアウトソーシングガイドライン」編纂・事務局 / 総務省地域情報化評価委員 / 総務省ASP・SaaSセキュリティ研究会委員(ガイドライン初版の原案作成)/ 総務省ASP・SaaS国際連携委員会副主査 / 総務省グローバル時代におけるICT政策TFメンバー / 総務省地球温暖化対応ICT政策研究会WG委員(DC消費電力問題の提起)/ 総務省データセンター情報開示項目ガイドラインWG事務局長 / 財務省通関システム審議会委員 / 経済産業省中小企業基盤機構サービスモデル研究会委員 / 北海道データセンター立地推進委員会委員 他多数

2008年 ── DC電力問題を国内で初めて政府に提起

総務省「地球温暖化対応ICT政策研究会」WGにて、クラウド普及に伴うDCの電力消費急増を試算・提言。PUE指標の標準化・可視化を提唱し、北米グリーングリッドとも連携。

2015〜16年 ── 経産省「DC地方分散化」実証事業

「できない理由」を実データで整理し、「寒冷地なら競争力を持って実現できる」ことを示した。楽天新潟データセンター(旧データドック)の基本設計・工事監理にも携わった。

2018年 ── 経産省へ「デジタル赤字」問題を提言

外資系クラウドが席巻する市場構造がもたらすデジタル赤字の問題を提起。国産クラウド・国産DCの育成なくして日本の産業競争力は守れないという問題意識を伝え続けた。

石破茂大臣(当時)へのご説明・さくらインターネット誘致

地方創生大臣時代の石破茂氏に対し、議員会館にて寒冷地DC構想をご説明。石狩市とともにさくらインターネットの誘致活動を推進し、現在も石狩はDC集積地として発展を続けている。

1996年〜
総務省・経産省への
クラウド政策提言開始
国連ITU
GEDC構想が
ベストプラクティス受賞
15年+
デジタル赤字・国産クラウドの
必要性を政府に提言
500回+
セミナー・講演

Chapter 07

年譜

産業変革の主な軌跡。

1980年代 光センサータッチパネル国際特許・ビデオ会議特許取得。TTC国際WGで北米・西欧との通信プロトコル標準化に参画。後のクラウド技術の礎となる研究開発を推進。
1996年 友人とともに国内初のクラウド推進団体ASPICを創設し、常務理事として業界標準化・政府連携を主導。
1999年〜 ASPIC常務理事として技術部会長・DC研究会会長・国際会議事務局主幹を歴任。総務省をはじめ複数の政府委員会に参画開始。
2003〜04年 総務省「公共ITアウトソーシングガイドライン」を執筆・編纂。北海道から沖縄まで全国16都道府県の自治体職員・情報政策課に向けてクラウド活用教育を実施(計約5,000名)。
2005年 財務省通関システム審議会委員として、WTOルールに基づく公共IT随意契約の適正化に貢献。公共調達のビジネス構造改革に関与。
2006〜08年 総務省ASP・SaaSセキュリティガイドライン(第一版)の原案作成リーダー。ASP・SaaS国際連携委員会副主査として海外標準との整合を推進。データセンター情報開示ガイドラインWG事務局長も務めた。
2008年 総務省地球温暖化対応ICT政策研究会WGにて、国内で初めてDCの電力消費膨張問題を具体的に提起。PUE指標の標準化を提言し、北米グリーングリッドとも直接議論。
2008〜10年 北海道GEDC研究会を発足・会長就任。全42カ所のDC立地アセスメントを主導し石狩を最優良立地と選定。さくらインターネットの誘致を石狩市とともに実現。IEEE・電気学会に論文発表。国連ITU-SG5でベストプラクティス受賞。
2011年〜 震災を機にIT業界400名の有志とともに東北SaaSクラウド復興支援フォーラム(会長)を設立。ホテル・新聞社等への具体的なクラウド活用支援を実施し、2021年まで活動を継続。
2012年〜 青森県・山形県長井市・新潟県のデータセンター立地アセスメントを受託・実施。楽天新潟DC(旧データドック)の基本設計・工事監理も担当。
2018年〜 経済産業省を訪問し「デジタル赤字」の課題を提言。2019年以降の政府による国産クラウド支援政策の方向性と軌を一にしている。
現在 NCRI株式会社会長として、大手ITベンダー・SIerへの事業戦略コンサル、DC/クラウド基盤設計・政府プロジェクト従事を継続。東京理科大学・東海大学・開志大学・北見工業大学など6大学・専門学校での特別講義を通じ、次世代IT人材の育成にも20年以上取り組む。

Chapter 08

知の蓄積

著書・論文・特許。

実践と並行して、知識を体系化し産業全体に還元してきた。日経BP・リックテレコム・自治日報社などへの著書、電気学会・IEEEへの論文、複数の特許が、日本のクラウド・DC分野の標準的な参照資料となっている。

  • 「ブロードバンドSaaS新市場」(リックテレコム社)
  • 「モバイルSaaS スマートフォンの衝撃」(リックテレコム社)
  • 「ASP白書」共著(IDG社)
  • 「公共XSP・IDC活用のアウトソーシングとリスクマネージメント」編纂・共著(自治日報社)
  • 「ASP・IDC活用による電子自治体アウトソーシング実践の手引き」編纂・共著(日経BP社)
  • 「大学生のためのクラウド講座」
  • 光うす膜遮断検知タッチパネル特許・ビデオコンファレンスシステム特許 他多数
  • 電気学会論文「データセンターの電力需要と地域間のエネルギー統合」(津田邦和・田野俊一・市野順子・森俊介)
  • IEEE論文「Lower Data Center Power Consumption through Use of the Climate Characteristics of Cold Regions and Inter-regional Energy Integration」(2010, Shanghai)
  • インプレスデータセンター完全ガイド 特別連載「寒冷地GEDC(グリーンエナジーデータセンター)実現への道のり」
  • ZDNet連載「国が考えるデータセンター地方分散化のメリットと課題」(経産省担当官との対談)

日本のデジタル産業への貢献、これからも

研究開発・政策・教育・事業──四つの領域にわたり、政府・大学・業界団体・民間企業の多くの方々と協力しながら、日本のクラウド・データセンター産業の発展に関わってきた。津田邦和の歩みは、一人の力ではなく、共に取り組んできたすべての関係者とともにある。NCRI株式会社はその精神を受け継ぎ、引き続き日本のデジタル産業の競争力向上に貢献し続けていく。

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